ITコストのチャージバック導入における6つのステップ

単にITコストのチャージバックを行うだけでは、コスト意識を醸成することはできません。ベストプラクティスを取り入れながら、チャージバックのプロセスを確立させる必要があります。

ITコストのチャージバックにより、事業部門のIT利用や利用に対する課金が可視化されるため、事業部門がIT利用について、財務面での説明責任を担うことになります。ITコストのチャージバックを導入すると、事業部門の担当者は、自部門のITコストを理解できるようになり、コスト意識を持ったうえで、ITの利用方法を変えるようになります。ただし、ITコストのチャージバックというのは戦術にすぎません。戦術は望ましい結果を得るために適切に実行する必要があります。チャージバックの導入はあらゆる企業にとって大きな決断になります。どのようにITコストのチャージバックを組織に導入するのかも同様に重要です。

ステップ 1: ITコストのチャージバックが組織の役に立つかどうか判断する

ITコストのチャージバックの成功は、ITと事業部門の協業にかかっています。チャージバックはチームスポーツであり、個人プレイではありません。

IT予算が一元化されIT部門の責任になっている場合には、事業部門はITコストが分かりません。そのような場合、事業部門にとってはITというのは無料で無制限のリソースであり、詳細な費用はブラックボックスとなっています。ITの製品やサービスに関して事業部門に課金するというモデルへの移行は、大きな変化であり協業が欠かせません。ビジネスリーダーにとって、ITコストのチャージバックの最初の請求書が、驚きとなるのは望ましいことではありません。テクノロジーのリーダーは、事業部門がITに関する実際の請求書を最初に受け取る前に、最初の請求書について理解できるよう手助けする必要があります。1つのやり方は、ITコストのチャージバック開始前の数カ月間においてショーバックプロセスを実行することです。ITのチャージバックに関する最初の請求書の数字が事業部門にとって、驚きとならないようにするためです。

事業部門の予算担当者はチャージバックの理由と利点を理解する必要があります。例えば、IT予算をイノベーションやよりビジネスのニーズに沿ったプロジェクトに振り分けられるようにする、といったことです。ITコストのチャージバックの導入に前向きでない方もいると思いますが、事前に対話をすることで、その方たちにとっても、チャージバックが、驚きにないようにします。

ステップ 2: ITコストのチャージバックを計画する

効果的なチャージバックに必要な人材やスキルを要している組織は現時点で多くはありません。そのため、IT部門が効果的なチャージバックを導入するために、担当者のトレーニングが必須となります。財務会計のスキルは重要です。コスト回収のために、IT部門は製品やサービスのコストのモデル化、料金設定や請求書の計算といった新しい業務をする必要が出てきます。

また、ITコストのチャージバックでは、製品やサービスの責任者を任命する必要があります。新たにコストを負担する利用部門に対して、IT製品やサービスの設計、提供、利点の説明、コスト回収を実施するIT部門の人材になります。

ITコストのチャージバックを計画するためには、次の点に関してアカウンタビリティと責任を割り当てる必要があります(これ以外の項目もあります):

  • 製品とサービスのポートフォリオの定義
  • 製品とサービスの総所有コスト(TCO)の計算
  • 製品とサービスのマーケティング
  • ITコストのチャージバック戦略の定義と実施
  • コストの回収

ITコストのチャージバックでは、IT部門は他の外部サプライヤーと同様に、サプライヤーの立場となります。外部サプライヤーは顧客に製品やサービスを売り込み、販売します。ITコストのチャージバックをする部門はどのような戦略を使うべきか決定する必要があります。

ITコストのチャージバックには様々な戦略があります。一般的な戦略は次のようなものです(もちろん、これ以外にもあります):

  • コストまたは損益なし :このチャージバック戦略は、IT部門によるコストの回収が多すぎても少なすぎてもいけない場合に利用されます。回収する金額がコストと同等である必要があります。価格はこの点を達成するために設定されます。多くの場合、収支を合わせるために年末に追加の回収や払い戻しを実施する必要があります。
  • コスト + モデル:間接費やその他のコストを賄うためにIT部門は少額の利幅を上乗せします。なんらかの理由で原価(COGS)が若干上昇したとしても、上乗せ分が各四半期ごとのコストを常に賄えるという合理的な確信を持てることができます(おそらく、予測された原価(COGS)の2%~3%の上乗せで充分です)。利用部門は、より一貫性を持った課金額を予測ができるようになり、IT部門は、予想外の費用を賄うために、期末に追加の支払いを依頼しなくてもすむようになります。ただし、余剰資金を全く必要としなかった場合に備え、それを利用部門に払い戻す方法を考えておく必要があります。
  • 戦略的プライシング:IT部門が利用部門と協力して、将来の需要を予測し、事前に価格や料金を設定します。この戦略では、価格を利用して需要に影響を与えることになります。例えば、IT部門が推奨しているセキュリティサービスに対する需要を創出したい場合、利用してほしいセキュリティサービスのコストを意図的に引き下げる一方で、停止したいレガシーシステムの価格を引き上げます。ここでの課題は、意図的に設定した価格が利用部門に受け入れられるものであるようにすることと、ITがコストを賄えるように価格を計算することです。

ステップ 3: ITコストのチャージバックモデルに説明責任を組み込む

ITコストのチャージバックはコスト削減だけの話ではありません。IT投資が事業価値や顧客ニーズへのサービス提供に継続的に沿うものになるというITFM (IT Finance Management)戦術です。ITコストのチャージバックがコスト回収だけの話で、費用負担の公正が必要ないのであれば、全利用部門に対して均一にコストを配分すれば良いでしょう。しかし、実態はそうではありません。ITコストのチャージバックのモデルの原点にかえり、チャージバックにより説明責任を明確化しましょう。そのためには、コスト回収だけを考慮するのではなく、利用部門と関係を構築し、需要を管理していくことが必要です。ITコストのチャージバックのモデルに説明責任を取り込む戦略をいくつかご紹介します:

各ITサービスに価格を設定する

ITの価値を利用部門が理解できる形で、サービスごとの価格を伝える。IT部門は、利用部門と「価値とは何か」といった会話をする必要はありません。「価値」とは主観的なものであり、IT部門は、利用部門に対して、事業目標達成のためにどのようにITを利用すべきか、すべきでないかについて指示する役割を担っているわけではありません。利用部門は、IT以外のリソースに対しても支払いをしています。それと同じで、利用部門自身が何に対して対価を支払うべきか判断することで「価値」を定義するのです。この考え方は、個別サービスに適用できるとともに、サービスポートフォリオの一部である共通サービスモデルにも適用できます。ITコストのチャージバックのモデルでは、価値を主観的なものではなく、需給という市場の力で捉えなおします。

ITコストのチャージバックモデルに対する信頼度を高める

ITコストのチャージバックモデルによって、期末の会計調整のわずらわしさが軽減されることを示します。ITFMプロセスにおいて、年末に余剰金があったり、予算を使い果たしていたり、追加の支払いを求めたりするほど、信頼性を損なうものはありません。

コストに基づいた請求では会計調整の必要性がなくなります。毎月の実際のコストに基づいた請求になり、請求書には「季節変動」がつきものです。利用パターンが変動するため、コストベース請求は、利用部門にとっては、予期不可能であることがあたりまえのことになります。

予算に基づいたチャージバックモデルでは、ITの事情に重きを置き、会計上の調整も最低限になるので、請求額が予測可能となります。予算と実績の間には必ず調整が必要になりますが、年間を通じてコスト回収をモニターすることで、そのような調整を最小限に抑えることができます。

ITコストのチャージバックモデルに対する信頼を獲得するためには、ハイブリッドの請求モデルが最適な戦術である場合もあります。年間を通して、実際の支出が均一なサービスもあります。そのようなサービスにはコストに基づいた請求を利用します。ビジネスサイクルによって、支出が変動するサービスもあります。それには予算に基づいた請求を利用します。

利害関係者の賛同を得る

IT部門だけが、この領域の唯一の関係者という訳ではありません。「アズ・ア・サービス」と名の付くあらゆるもの(XaaS)の普及に伴い、社内のサービスが、外部のサービスと公平に比較されるようになっています。利用部門は、比較した結果、社内サービスを利用することが不公平であると判断すると、新しいチャージバックシステムによる支払いを減らすために、シャドーITへの支出を増やすことになります。

新しい課金額が過去のものと大幅に異なっていると、不公平感が高まります。サービスの価格を上げると、新たなプロフィットセンターを作っているとの印象を持たれ、価格を下げると、過去の「超過」価格が疑問視されます。

利用部門からの質問に対して、威厳も持って回答するためには、ITファイナンスチームとして、請求書の中身を完全に理解しておく必要があります。

ステップ 4: 適切なシステムとプロセスを構築する。

ITコストのチャージバックモデルにスプレッドシートを使うことはできるでしょうか? 答えは、「Yes」になります。ただし、使うべきでしょうか? 答えは、「No」になります。

ITコストのチャージバックモデルを成功裏に導入するには、特定の能力が必要となります。それらは、次のような能力です:

  • 製品とサービスの定義
  • 実コストの追跡
  • 需要の管理
  • 価格の計画策定
  • 請求額の計算
  • IT部門への予算移動
  • 製品とサービスのマーケティングと販売
  • ITコストのチャージバック請求書とレポートを利用部門と共有

スプレッドシートでは、タイムリーかつ反復的・継続的にこのような能力を提供するのは難しいです。多くの企業が、ITコストのチャージバックにスプレッドシートを使うことをやめ、代わりに専用のチャージバックソリューションを採用しています。

ステップ 5: 現状を基準に設定する

ITコストのチャージバックを適切に導入すると、利用部門によるITの利用状況に影響を与えることになります。チャージバック導入のITサービス利用の状況を把握することで、この影響をベンチマークすることができます。そのためには、以下のようなITのコストモデル、運用データ、財務データを活用する必要があります:

  • 全体ITコスト
  • 製品及びサービスごとの総所有コスト(TCO)
  • 部門ごとの全体ITコスト
  • 製品、サービス、アプリケーション、テクノロジーのポートフォリオ
  • IT資産
  • キャパシティ、利用率、利用状況
  • プロジェクト

現在の基準値を確認し、チャージバックのための製品とサービスの定義や価格設定に利用します。

ステップ 6: 製品とサービスのマーケティング及び販売

IT部門はマーケティングや販売を行う部門とは考えられていません。しかしながら、ITコストのチャージバックを導入すると、CIOの組織も、製品とサービス、またIT部門そのもののマーケティングや販売をせざるを得なくなります。

IT部門が予算を管理している場合は、IT部門以外の選択肢はありませんでしたが、利用部門が予算を管理するようになると、利用部門に他の選択肢が生まれます。IT部門は、利用部門にとって魅力的な選択肢になる必要があるのです。

次の点を明確に定義して伝え、利用部門がIT部門から製品とサービスを購入する可能性を高めましょう:

  • IT部門が販売しているもの
  • IT部門が提供する価値
  • 他の選択肢より、IT部門が優れている理由

ITコストのチャージバックモデルの導入には、組織の全員にとって、文化やツールの変更が必要になります。テクノロジー支出に関して、今まではIT部門と利用部門には縦割りの考え方がありました。IT部門は運用の観点から考え、事業部門はコストの観点から考えていました。ITコストのチャージバックプロセスは、この縦割りを打破する原動力となりますが、それはうまく導入が進んだ場合に限られます。

詳細については、無料のeBook「ITショーバック及びチャージバック:需要を明確化してテクノロジーコストを最適化」をご覧ください。

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