TBM と FinOps の連携

TBM はテクノロジー投資を統合的に管理し、投資対効果の最大化を目指します。一方、FinOps は、クラウドにフォーカスし、クラウド有効活用によるビジネス価値の最大化を推進します。

IT 投資管理のベストプラクティスであるTBM と、クラウド有効活用の実践モデルである FinOps には、IT の価値をコストではなく、創出されるビジネス成果で評価するという共通の目標があります。

TBM とは何か ?

TBMは、IT投資によりビジネスス価値を創出する一貫した方法を提供することで、ビジネス成果の向上を目指すベストプラクティスです。世界中の主要企業で採用されているTBMは、ITリソースをビジネス成果にマッピングするための標準化されたTaxonomyに支えられています。TBMオフィスは、IT部門、財務部門、事業部門の各リーダーと協業し、テクノロジーインフラストラクチャを正確に把握します。TBMは、すべてのステークホルダーが理解できる、信頼できる唯一の情報源を提供し、組織間のコラボレーションと信頼感を向上させ、納得感のある意思決定につなげます。TBMを導入した組織は、意思決定を迅速に行い、常に変化する市場環境に素早く対応し、ビジネス目標を達成するために、クラウドとアジャイルの活用を最適化します。

TBM は、データドリブンアプローチにより、オンプレミスを中心とした IT投資の管理、計画、最適化を実施するために設計されています。しかし、IT運用モデルの進化に伴い、TBMも進化を続けています。今日では、リーダーは、テクノロジー投資を、個々のアプリケーションやITサービスの総所有コスト(TCO)だけでなく、ビジネス戦略と対になる最終プロダクトのTCOと結びつけなければなりません。

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TBM 概要

IT 投資管理の方法論として設立されて以来、TBM の対象にはクラウドコストも含まれていました。TBMは、クラウド移行の計画と効果測定を行う方法を提供し、クラウド活用を加速させようとしている組織を支援します。しかし、FinOps の登場により、Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud Platform などのクラウドインフラストラクチャとプラットフォームサービスの利用とコストを管理する、より具体的で詳細なベストプラクティスが生み出されました。

FinOps とは ?

FinOps はクラウドのために誕生しました。システム、ベストプラクティス、文化の醸成により、クラウドコストを把握し、データに基づいた迅速なトレードオフの決定を行う組織の能力が向上します。FinOps は、技術的および組織的な手段によって、クラウドコストとクラウド利用量を最適化することに重点を置いています。

FinOps は、クラウドコストの管理責任をクラウドの専門家に委ねており、シニアリーダーシップチームは、何に取り組むべきかについては意見を述べますが、その実現方法については、意見を述べません。アプリケーションの責任者、特にクラウド担当者は、クラウドコストの可視化と管理ツールを手に入れることで、リソースをより良く管理できるようになります。組織は、FinOps により、責任感を持ったクラウドユーザーを育成する能力を持つようになります。

シニアリーダーシップチームは戦略指針を立案しますが、戦術に関しては担当者に任せます(例えば、「予算は X で、アプリケーションを提供するためのコストは、ユニット当たり Y 以下にできる」など) 。クラウド担当者は、戦略指針を満たしながら、関係者に十分な情報を提供しつつ、急速な変化に対応できるよう、柔軟で迅速かつ効率的な組織を構築するために、クラウドリソースの割り当てと最適化を実施します。

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FinOps のジャーニーは、3 つのフェーズで構成されます

TBM と FinOps の連携のしくみ

TBM と FinOps は、主に各企業の IT 支出の特性に基づいて使用されます。IT 支出が大きく複雑な場合は、広範囲にクラウドを利用しているかどうかにかかわらず、TBM が必要になります。FinOps は、IT 支出全体の規模と複雑さに関係なく、クラウドサービスの変動支出モデルを採用している組織で必要になります。両方の状況が存在する場合は、TBM とFinOps の両方を活用します。

特性 FinOps TBM
意思決定の周期 ほぼリアルタイム 月次、四半期、年次
説明責任 エンジニアリング、DevOps、SRE(Site Reliability Engineering)、製品チーム IT部門、財務・経理部門、および事業部門が連携
スコープ パブリッククラウドのインフラストラクチャとプラットフォームサービス 人件費、ハードウェア、ソフトウェア、クラウドを含むサードパーティサービスなどの IT 支出の合計
主目的 クラウドの利用量とコストを最適化し、クラウド活用によりビジネス価値を創出する アプリケーション、製品、サービスを始めとするすべてのIT 関連コストを最適化し、IT 投資によるビジネス価値を実現する
予測 トレンド分析及びビジネス需要に基づき、迅速なイタレーションと高い精度を実現 トレンド分析及びビジネス需要に基づき、IT 予測を財務予測に変換
重点アクション ボトムアップ、戦術的 トップダウン、戦略的

TBM は Google Maps に似ています。都市間を移動するための詳細情報と合わせて、俯瞰的な地図も提供します(ただし、スマートフォンの画面ばかり見て、運転することはできません。それは不注意運転になります)。この話をクラウドに当てはめると、FinOps は、速度の確認、安定走行、衝突の回避、さらに停止や加速などに利用するダッシュボードになります。 TBMが提供する、進むべき方向を指し示す俯瞰的、マクロな視点と、FinOpsが提供する、最も効率的に目的地に到着するためのリアルタイム戦術の視点の両方が必要です。これら2つの視点は、連携していなければなりません(予期せぬ道路工事を回避するために、瞬時に迂回経路が必要な場合は、FinOps の機能になります)。

ハイブリッド IT 環境は、従来型の大規模なオンプレミスのテクノロジーに加え、クラウドベースのサービスも合わせて構築されているため、TBM と FinOps の両方の視点が必要になります。両方とも同じくビジネス価値を中心に置いた会話をサポートしますが、TBM は、IT全般のデータを活用したトップダウンアプローチをとり、さまざまな角度から作成された月次レポートを活用します。一方、FinOps はリアルタイムのクラウドデータを活用したボトムアップアプローチを採用しています。TBM とFinOpsの両方を活用することで、IT投資を俯瞰的に把握することができ、ITのビジネス価値に関する考察を得ることができます。

オンプレミスのインフラストラクチャからパブリッククラウドへある特定のワークロードを移行するシナリオを考えてみましょう。効果的な移行を実現するためには、移行前にワークロードの利用状況と維持費も含めたコストを把握しておくことが大切です。TBM は、各種データから、アプリケーションとインフラストラクチャの TCO (Total Cost of Ownership : 総保有コスト) を可視化しますが、ワークロードのクラウドへの移行や、その後のクラウド利用量の管理には、FinOps が必要となります。もちろん、クラウドへ移行後もワークロードのコストの大部分は、人件費、ソフトウェア、ネットワーク、その他のリソースに由来し、またそれらのコストが増減することもあるため、TCO を把握するためには、TBM が必要となります。

TBM を既に導入している企業の場合、FinOps は、クラウドに特有の利用量の変動に関する課題に対応します。利用量が時間単位で大きく変動するため、その月、あるいは極端な場合には、1年間の全予算をあっという間に消費してしまうこともあります。この場合は、TBM の通常の月次レポートでは不十分で、FinOpsが必要となります。FinOps は、クラウドの利用量をほぼリアルタイムで管理するための管理手法、ツール、データを提供し、そのデータを活用することで、クラウドの利用量を最適化し、クラウド活用の能力と効率性を継続的に向上させる文化を醸成します。

一方、TBM は、FinOps を既に導入している企業に、テクノロジー投資に関するより幅広い情報を提供します。TBM は、人件費、ハードウェア、ソフトウェア (資産化したものまたはサービスプロバイダーから提供されるもの) 、データセンターなど施設、通信費などの IT コストをモデル化し、レポートを提供します。TBM とFinOps は、組み合わさることで、優れた能力を発揮します。FinOps は、より動的なリソースをより厳密に管理する一方で、TBM は、月々の支出と利用量に関するマクロ視点のデータを提供します。

TBM と FinOps は補完的

数千、数百万のクラウドリソースのすべてをひとつひとつ管理し最適化する能力を備えた FinOps は、細部にわたる管理に重点を置いています。TBM は、総勘定元帳のデータ (人件費、ライセンス、収益など) 、オンプレミスの運用データ (BMC TrueSight など) 、プライベートクラウド (vRealize など) 、月次のクラウドプロバイダーからの請求データを含めた、あらゆる IT コストを可視化します。

別の言い方をすると、FinOps は、クラウドを活用したイノベーションを最大化するために完全に単独で機能し、APIを介してTBM に統合することができます。両方を活用することは、相互にメリットがあります。片方だけを利用する場合、もう一方からの重要なインプット、利害関係者、そして理解が必要となります。

FinOps、TBM、そして開発チームがクラウドエコノミーを支えます。FinOps から提供されるきめ細かなクラウド関連データと、総勘定元帳からの人件費、コスト、収益情報を組み合わせることで、実用的なクラウドコストのチャージバック (コスト配賦) が実現します。FinOpsを導入せずにクラウドを利用している場合、チャージバックが不正確になる可能性があります。IT のユニットエコノミクスが適切に管理されている場合、開発チームは、コストのかかる手直しが不要となり、また組織の効率要件を満たさないソリューションを再構築するためにイノベーションを中止する必要もなくなるため、イノベーションの推進をスムーズに行えるようになります。

TBM と FinOps の両方を導入しているほとんどの企業では、異なる 2 つのチームが協働しつつ、それらを管理し、運営しています。TBM は通常、TBM オフィスまたは IT ファイナンスチームが管理します。一方、FinOps は、エンジニアリングに組み込まれたチームが管理します。ただし、これらのチームは、利用部門がどのように責任を負うのか、そしてIT コストに関するデータをどのように活用するかについて協議する必要があります。例えば、何らかの方法で利用部門にクラウドインフラストラクチャ (IaaS) のコストを直接請求するのか、または、クラウドのコストを当該のアプリケーションに割り当てて、TCO を計算した後に、利用部門にアプリケーションのコストを割り当てるか、などについてです。当然のことですが、TBM と FinOps は、このような決定について共通の認識を持つ必要があります。

ユニットエコノミクス

TBM と FinOps の組み合わせは、IT の完全で正確なユニットエコノミクスを提供します。クラウドデータのみを単に利用する組織は、ユニットコストの概要しか把握できません。FinOps の原則に従って管理されていれば、クラウドコストのIT全体に占める比率が高くなるにつれて、ユニットコストがより正確に把握できるようになります。

ユニットエコノミクスにより、あるビジネスの1単位から得られる収益と、そのサービスに関連する支出を結び付けることができるようになり、最終的にその支出から生み出されたビジネス価値が明らかになります。

TBM とFinOpsの連携によりもたらされる究極の成果は、すべてのクラウドワークロード、さらにはアプリケーション、サービス、製品、バリューストリームなどの広範囲にわたり、納得感のあるユニットエコノミクスが実現することです。

経営陣から DevOps担当者にいたるまであらゆる関係者が理解でき、IT コスト、品質、価値を捉える、1つのビジネス志向のKPIに注力する必要があります (例:旅行会社における1マイルあたりのコスト、ヘルスケア業界における1ベッドあたりのコスト、保険会社における1申請あたりのコストなど) 。ビジネス志向のIT 指標を策定するには、TBM と FinOps が提供する情報が必要になります。

ユニットエコノミクスは組織およびワークロード固有のものであり、特定業種で広く受け入れられる共有の指標があるわけではありません (例えば、病院では入院医療と外来医療で異なるKPI、運送会社では、運送方法によって発生するコストが異なります) 。TBM とFinOps はデータを集約し、クラウドのユニットコストを低下させるベストプラクティスの活用を促進しますが、目標はあくまでもそれぞれの組織が定義するものです。

また、IT はユニットエコノミクスの一部にすぎません。データや知的財産権を取引するクラウドネイティブの企業(例 : Spotify や Capital One) は、事業運営費用の大部分がIT 関連になっています。このような組織では、IT コストの変化をユニットエコノミクスの変化に容易に結びつけることができます。対照的に、輸送および物流会社のIT 支出は、18 輪トラックや飛行機と比較すると非常に小さいものになります。この場合、IT によりイノベーションは推進されますが、ユニットエコノミクスへの貢献度は小さくなります。

TBM とFinOps は、クラウドのユニットコストを低下させますが、IT が、例えば1 マイルあたりのコスト、または1 回の配達あたりのコストなどのごく一部しか占めていない場合、クラウドコストがユニットエコノミクスに与える影響は限定的になります。

TBM と FinOps がビジネス価値を推進

運用コストとビジネスの指標は、必ずしも完全に一致するわけではなく、例えば、IT 投資と収益に直線的なつながりがあるわけではありませんが、TBM とFinOps により、IT の効率化を推進し、顧客満足度(収益増加の先行指数)を計測することはできます。

ストリーミングビデオサービスのFinOps チームの例を見てみましょう。現在のインフラストラクチャでは、1 ストリームあたり、コンテンツを600 msで配信し、コストは0.01 ドルです。DevOps チームがテストを行い、インフラストラクチャの改善を実施すると、配信時間は400 ms に短縮されるものの、コストは 0.011 ドルにあがることがわかりました。10% コストが増えますが、顧客が利用する有料コンテンツが 20% 増えることもわかっています。これは成功といえます。コストは増えますが、それ以上に利益が出るからです。業務の改善により、顧客満足度が向上した、Win-Winの例です。

顧客体験を向上させるために IT 支出を増やすことで、収益が減少する例もあります。ストリーミングサービスでは、顧客が視聴したいと思うコンテンツを提供することは、映像の画質よりも重要な差別化要因となるからです。

ビジネスリーダーと DevOps チームは、次のように自問自答する必要があります。「現行の製品への投資と比較して、どの程度イノベーションへのIT 投資を増やすべきか? 」 そのバランスを設定し評価するのが、TBM と FinOps が交差する点です。これは純粋な IT の話ではありません。また「作れば必ず買う人が現れる」と強く願うことでもありません。

TBM と FinOps に特化したシステム

TBM も FinOps も、一度運用が開始されると継続的に膨大な労力が必要となるようでは、スケーラブルとは言えません。TBM と FinOps は、マニュアル作業を減らし、自動化の比率を高め、変化に対応できる堅牢で柔軟なものでなければなりません。

Apptio は、ファイナンス、テクノロジー、ビジネスのリーダーが 、TBM と FinOps の原則を活用し、テクノロジー投資の意思決定を高度に行えるようにします。Apptio の統合コストモデルは、データ更新を自動化し、データに基づく洞察を数分で提供します。計画サイクルを短縮し、パフォーマンスを迅速に評価することで、最も大きなリターンが見込まれる機会にリソースを振り向けることが可能になります。

IT 部門は、従来型のオンプレミスと新しいクラウドベースのテクノロジーの両方をカバーする、IT投資の管理手法を評価し、最適化し、運用しなければなりません。TBM と FinOps は、クラウド活用を加速させながら、新しい IT 運用モデルのビジネス価値を評価します。

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